ピアプロ企画班です。
今回より、「ピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)」の各条文に関して、その解釈や意図するところを何回かに分けて説明いたします。少々長い文章となりますが、PCLの本文やガイドラインを見ても不明な点があるような場合の参考としていただければと思います。
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それでは、最初のエントリーといたしまして前文~1条について説明いたします。
PCL解説(前文~1条)
前文について
ピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)の前文です。「初音ミク」をはじめとする当社キャラクターを大勢のクリエイターの皆様にご利用していただくに際し、現行の著作権法がすべての著作物を一様に規律しているという事実の確認と、その規律の範囲を当社のキャラクターに限って拡張するためにPCLを制定するに至ったことを記しました。
理念
一般に「版権物」と称されるキャラクターについて、原画をそのままのかたちで、またはみずから描いたイラストなどのかたちにして(いわゆる「二次創作物」)、その権利者の許諾がないままインターネットなどで公表することは、著作権法などの法律によって禁じられています。『初音ミク』などの当社キャラクターも、法律によって同じように扱われます。
一方、クリエイターにとって、自ら汗をかいて制作した作品を、それが二次創作物であってもインターネットなどで公表したいと思うことは自然な願望です。当社も、営利を目的としない利用については、当社のキャラクターをできる限り使っていただきたいと思っています。
クリエイターと権利者双方の願いと、現行著作権法とのギャップを埋めるために、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社(以下、「当社」といいます。)は、ピアプロ・キャラクター・ライセンス(以下、「本ライセンス」といいます。)を制定します。
前の三段落は、当社キャラクターを利用されたクリエイターの皆様の活動のご様子を拝見するなかで、当社が解決しなければならないと考えました問題、およびPCLを制定する上で掲げた理念を表明したものです。
概略
本ライセンスは、当社が権利を保有するキャラクターを利用者(第1条第6号に定義)が利用する場合の利用可能な範囲および利用条件を定めるものです。
四段落は、PCLがなにであるかを、一文で示したものです。
契約
利用者は、当社キャラクター(第1条第2号に定義)を利用することによって、本ライセンスの条項に一切の留保なく、かつ一切の条件を付帯することなく拘束されることを承諾し、本ライセンスに同意したものとみなされます。
PCLは当社と利用者各位との間に締結されるライセンス契約です。
日本において契約とは特別な形式を必要とせず、契約当事者双方の意思表示の合致があれば成立します。本ライセンス契約では、当社の「この条件を守っていただくことでこの利用を許諾します」という申込に対しご承諾いただければ、そのご承諾をされた方個人との間で契約が成立します。
ただし、本ライセンス契約では、本キャラクターの利用を希望される方が極めて多数であるため、その全ての方々が本ライセンス契約に同意されたか否かを、口頭または文書で当社が確認することは困難です。そのため、本キャラクターの利用を行われたことをもちまして、利用者が本ライセンスに完全に同意して本キャラクターをご利用されることに同意されたとみなすことにし、当社と利用者双方の利便を図るのが前文五段落の目的です。
第1条について
第1項第1号
1. 本ライセンスにおいて、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによります。
(1) 「キャラクター」
その存在を他と区別するために、名称を付与され、その他音声、外見、性格等によって特徴づけられた抽象的概念を表現するために創作された、絵画の著作物をいいます。
「キャラクター」という概念について、知的財産権法上の一般的な定義は定められていません。本ライセンスでは、当社が明確に権利を有する「絵画の著作物」をその定義の中心に据えていますが、これはあくまで本ライセンスにおける取扱上のことであることにご注意ください。
また、現行の「キャラクター・ボーカル・シリーズ」諸製品におけるエンドユーザー使用許諾契約書でキャラクターを「抽象的概念」と定めたのは、当社が権利を有する絵画の著作物によって表されるキャラクターの容貌・外見以外の部分も含めて「キャラクター」であることを示しています。
同エンドユーザー使用許諾契約書では定義の中心部分を「抽象的概念」とし、本ライセンスにおいては「絵画の著作物」を中心とするように、この二つにおいて定義が逆転しているのは、同エンドユーザー使用許諾契約書が当社キャラクターの一般的な定義を定めることを目的とするのに対し、本ライセンスは当社キャラクターに関する当社の明白な権利について明らかにすることが目的であることによります。
第1項第2号
(2) 「当社キャラクター」
当社の製品である『MEIKO』、『KAITO』、『初音ミク』、『鏡音リン・レン』、『巡音ルカ』のために作成されたキャラクターの各々をいいます。
本ライセンスの対象を定義する条文です。
「当社の製品のために作成されたキャラクター」とは、当社が製作し、当社製品のパッケージや当社ホームページにおいて用いている、当社VOCALOID製品に対応する絵画の著作物をいいます。
また、これまで『MEIKO』『KAITO』に関してはキャラクター利用のガイドラインに含めておりませんでしたが、今回のライセンスによってこれを解決いたします。
第1項第3号
(3) 「二次的著作物」
著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいいます。
この号に定める二次的著作物の定義は、著作権法第2条第1項第11号に定める定義と同じものです。これは、著作権法で用いられるのと同じ「二次的著作物」という言葉を用いることから、混乱を避けるためにあえて同じ定義をしたものです。
そのため、PCLの対象となる、絵画の著作物である当社キャラクターを原著作物とする創作行為においては、言語の著作物を対象とする「翻訳」、音楽の著作物を対象とする「編曲」については考える必要がありません。そこで、二次的著作物を作成する行為のうち、残り二つの類型である「変形」と「翻案」についてここで説明いたします。なお、ここでは条文中にある「脚色」「映画化」は「翻案」の例であるとする見解を採用しています。
その前に、二次的著作物という概念自体について、多少の補足を申し上げます。まず、二次的著作物とは、原著作物に依拠し、その特徴的な表現を残しつつも、二次的著作物作成者の個性、創作性を付け加えた著作物となります。したがって、原著作物に手を加えたものであっても、その結果として創作性が加わらなかったものは二次的著作物とはいえません。また、創作性においては、その芸術的な価値は問われず、技巧的にどれだけ拙劣であっても、そこに作者の思想や感情が創作的に表現されていると感じることができれば、創作性があると判断されます。
また、二次的著作物にさらに新たな創作性を付け加えたものを三次的著作物と呼び、以降、四次的、五次的といった著作物を考えることは可能ですが、そうした考え方は無意味とし、ある著作物が他の著作物との関係において二次的著作物であるかどうかを問題とするという考え方をここでは採ります。
それでは、ここから「変形」と「翻案」について説明いたします。
「変形」とは、既存の著作物の表現形式を変更することをいいます。例を挙げると、初音ミクの絵をもとにして、ミクのフィギュアを作ったり、3DCGを作成したりする行為がこれに当たります。
「翻案」とは、既存の著作物に依拠し、その表現上の本質的特徴の同一性を維持しつつ、その具体的表現を変えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、元の著作物の表現上の本質的な特徴と同時に、新たな別の創作的表現を感じられる著作物を作ることをいいます。これも例を挙げると、初音ミクの絵を元にしてその特徴的な表現を残したまま、表情や姿勢を変えて独自の絵を描いたものがこれにあたります。
第1項第4号
(4) 「改変物」
著作物を変更、切除その他改変して作成したものであって、二次的著作物に該当しないものをいいます。
この号でいう「変更、切除その他の改変」とは、既存の著作物に何らかの手を加えることすべてを言います。そのような行為によって新たな創作性が加わったものが、前の号で定めた二次的著作物であり、手を加えた後も新たな創作性が加わらず、原著作物の表現上の本質的な特徴だけが感じられるものがこの号で定める改変物となります。
例えば、当社キャラクターの原画像を拡大または縮小したり、単に色を塗り替えただけであったり、一部を切除したり、創作性のない簡単な線を書き加えただけのようなものが、これにあたります。
第1項第5号
(5) 「二次創作物」
改変物および二次的著作物、その他著作物に依拠して作成された著作物を総称したものをいいます。
絵画の著作物たる当社キャラクターに依拠して生まれた「二次創作物」について考えるときは、これまでに定義した「二次的著作物」と「改変物」だけでは十分ではありません。新たな創作性を付け加えていった結果、もはや当社キャラクターの表現上の本質的な特徴を感じられないようになった著作物となる可能性もあります。
そのような著作物は、著作権法上では新たに生まれた別個独立の著作物として評価されます。しかし、いわゆる二次創作文化においては、そのような著作物であっても、「抽象的な概念としてのキャラクター」という考え方から、なお同一のキャラクターとしてこれを評価することが一般的です。
PCLは著作権法の考え方に立脚するものではありますが、その目的は二次創作文化が根ざしてきた風土を尊重し、これに貢献することによってさらなる文化の発展に寄与したいというものです。したがいまして、このような「抽象的概念としてのキャラクター」の同一性に立脚して作られた著作物を「二次創作物」から除外して考えるわけには参りませんでした。そこで、本号では「その他著作物に依拠して作成された著作物」という記述を設け、このような著作物をも「二次創作物」に包含することにいたしました。
このような定義を行ったもうひとつの理由といたしましては、「改変物」「二次的著作物」「その他著作物に依拠して作成された著作物」を明確に区別する基準を設けることはできず、各著作物について個別具体的に判断せざるをえないことにもあります。したがって、これらの概念をことさら個別に切り分けることはせず、「二次創作物」というひとつの枠で扱ったほうが手続き上簡便であるということになります。
第1項第6号
(6) 「利用者」
当社本キャラクターまたはその二次創作物の全部または一部を利用される方をいいます。
現代においては、消費者が単に消費するに留まらず自ら生産者となることがさかんになっており、アルビン・トフラーはこのような消費者を「生産消費者=Prosumer」と名づけました。当社キャラクターをご利用されることで生じたCGMの波は、これを体現したものと当社では理解しています。このような現況に鑑み、当社は、当社キャラクターをご利用される皆様を全て「利用者」と位置づけるために、このような定義を設けました。
第2項
2. その他の用語の意義及び解釈については、本ライセンスに別段の定めがある場合を除き、著作権法(昭和45年法律第48号)の規定に従うものとします。
PCLは著作権法において定められた「原則OK」の利用範囲を当社キャラクターに限って拡大するものであり、その原理の基本も著作権法にあります。したがいまして、用語の意味も著作権法によるものとなります。
第3項
3. このライセンスに定めるもののほか、当社本キャラクターの利用に関し必要な事項は、当社が定めるキャラクター利用のガイドライン(http://piapro.jp/license/character_guideline/ 以下、「ガイドライン」といいます。)で定めるものとします。
「キャラクター利用のガイドライン」は、従前は利用者各位の二次創作活動全般に対する当社の方針・態度を示すものでした。当社はこのガイドラインの位置づけを明らかにしようとしてまいりました。その結果「当社の著作物における利用許諾の意思表示」を明確に示すものとしてPCLを制定し、ガイドラインについてはPCLが適用される具体的な態様を仮定し、それに基づいてPCLを補足する指針としての位置づけを与えるものとして再定義を行いました。
今回は以上です。引き続き連載いたしますのでよろしくお願いいたします。
(ピ企)